はじまりへの旅/普通じゃない、って、素晴らしい。

はじまりへの旅

はじまりへの旅Captain Fantastic/監督:マット・ロス/2016年/アメリカ


「へん」な家族と、「正しさ」の意味。


新宿ピカデリー シアター7 F-9で鑑賞。スルー予定がTwitterでの反応が良かったので、予告も未見で見た。ポスターから受ける印象は「ウェス・アンダーソンっぽいなあ」ということ。「Captain Fantastic」という原題がかわいらしい。

あらすじ:風変わりな家族が旅をします。

キャスト
  • ヴィゴ・モーテンセン
  • フランク・ランジェラ
  • ジョージ・マッケイ
  • サマンサ・アイラー
  • アナリース・バッソ

ネタバレしています。特に注意書きはしていません。

© 2016 CAPTAIN FANTASTIC PRODUCTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

おすすめ
ポイント
普通ってなんだろうって思います。ヴィゴ・モーテンセンのインタビュー、最後に載せました。
ウェス・アンダーソンっぽさはなかった。衣装がかわいらしい(『ヘイトフル・エイト』(2015年)のコートニー・ホフマン)。

普通ってなんだろう。私は、普通の人なんていないと思っている。私にとって「普通」というのは、「無個性」と同じ意味だから。個性のない人なんていない。ただ、社会の中で個性が均されて、無個性に見えてしまうことは大いにあると思う。


籠の中の乙女』(2009年)とか、『アダムス・ファミリー』(1991年)とか、『ウルフパック』(2015年)とか、社会と離されて育つ子供の話はいろいろある。この映画は彼らの「歪み」が「正しさ」と背中合わせになっていて、たしかに父親の言うことも一理あると思ってしまう。子供たちは父親から高度な教育を受けていて、肉体的にも「健康」だ。これはいったいなんなのだろう?と思っていたら、おじいちゃんがきっぱりと「ヒッピー」って言っていたので納得した。私は賢くないので、子供たちが学んでいることがさっぱりわからなくて、それでちょっと混乱したんだ。でも、これは混乱させるように作られているので、私の賢さが足りないことは許されるはずと思う。

おじいちゃんかわいそうなのは、結局子供らはおじいちゃんの元を去っていってしまったわけで、そこにどんなやりとりがあったのかはわからないが、お父さんが子供を守ろうとしたのと同じように、おじいちゃんも子供を守ろうとしていたわけで、おじいちゃんの気持ちはどうなるんだろうと思ったからだ。


二人の子供は、その演技のうまさも相まって、強烈な印象を残す。私は特にお兄ちゃんが気になった。大学に行かせてあげてほしい、と思っていた。でも、大学に行くことの何がそんなに大切なのか?と思うと、やっぱりこんがらがる。結局彼は家族の元を離れる、今まで触れてこなかったであろう社会へと飛び出していくので、安心した。彼の未来に何が起きるか、どんな試練が待っているか、その続きが見たいと思った。


母親は物語が始まってすぐ自殺している。心を病んでしまったからだ。いつから心を病んだのかもはっきり言われていて、この美しい物語の中で母親の死因だけが暗く影を落としているように思える。彼女は「こんなはずではなかった」と思っていたのかもしれない。愛する夫とともに作り上げるはずだった理想が崩れてしまっていたのでは?と、こういう要素をぶちこんでいるところもまた、良い。

ラストで家族は、その姿を変えぬまま、巣立っていく。彼らは「うまくやって」いけるのだろうか。きっと大丈夫だろうとも思う、だって、以前とは違うのだから。

ヴィゴ・モーテンセン インタビュー

最後に、配給さんから、ヴィゴ・モーテンセンのインタビューをいただいているので掲載します。

ご自身もお子さんのいる父親だと思いますが、「はじまりへの旅」のベンという強烈な父親役を演じる前、演じた後では、父として、意識が変わった点はありますか?

ヴィゴ「父としての感情とか行動が変わったとは思わないけど、「はじまりへの旅」の出演経験は、自分の息子との関係においても常に向き合っていることの重要性や、彼や周りの人間の話を聞くことの価値を再認識させてくれた。この作品は、自分が知らなかったり本能的に拒絶したくなるような思考や人々に対してはなおさら、本当の意味で心を開いたり対話を持つことが大事と言っているんだ。」

カンヌをはじめ世界中の映画祭で上映、絶賛され、国を超えて本作の評価が高まっていますが、本作のどういう点が世界中から評価されたポイントだと思いますか?


ヴィゴ「この作品が世界中で愛されているのは、誰にでも当てはまるテーマを扱っているからだと思う。自分の住む世界の中で、既存の信念や物の見方が通用しない状況に遭遇したり、家庭でも社会でも、特定の共存方法やコミュニケーションの取り方に対して自分が持っている偏見を見直す瞬間は、誰でも経験していると思うんだ。この作品の観客は、自分がどう育てられ、両親(もしくは保護者)とどんな関係を持ち、どんな対話や共存の仕方をお手本に見てきたかを考えさせられる。この物語は、一個人でありながら社会の一員であることの新しい、より良いバランスを探るために常に努力することと、自分の間違いを認めてより良い人間になるために学ぶことについて語っているんだ。」

撮影はハードでしたか?「ロード・オフ・ザ・リング」より楽でしたか?


ヴィゴ「はじまりへの旅」はピーター・ジャクソンの三部作に比べたらずっと短い撮影期間だったけど、同じような絆がキャストやスタッフの間に生まれたよ。この作品でも、本当の、そしてずっと続く友情が作品を準備する段階から生まれたんだ。「はじまりへの旅」ではアウトドアでの撮影がたくさんあって、効率的な協力体制と信頼がこの物語を語る上でとても大切だった。幸運なことに、2か月前にロサンゼルスで、この2作品のメンバー合同で食事する良い機会に恵まれた。あの夜は二つの「家族」に一緒に会えてとても嬉しかったよ。「はじまりへの旅」の子供たち全員と母親役のトリン・ミラーは、オーランド・ブルーム、イライジャ・ウッド、ビリー・ボイド、ドミニク・モナハンと知り合うことが出来た。みんなとても仲良くなって、いろんな面白いエピソードを紹介し合ったよ。」

この映画は昨今のアメリカの社会情勢において特に意義深い作品だと思うのですが、その点についてどう思われますか?

ヴィゴ「僕もそう思う。でもこの作品に出てくる問題が当てはまるのはアメリカの情勢に限ったものではないと思う。この作品は、上映されたすべての国で、素晴らしい反響を呼んできた。個人的にも、ヨーロッパや南米の各地で観客と接して思ったのは、彼らは作品の中で起こる出来事や感情を、自分の家族とだけでなく、一見豊かで平和に見える彼らの国や社会の中にはびこる対立構造と結び付けて考えている、ということだった。

近代のテクノロジーがもたらす世界的な高速のマスコミュニケーションはまだ、人種、宗教、哲学、言語、性別、国籍の違う人々の更なる相互理解を促すところにまでに至っていない。現状ほとんどの人は、既存の視点や偏見に合う情報だけを選別するために新しいテクノロジーを使っているように見える。これは対立や抗争を深めるだけだ。この状況が、時間の経過によって好転し、偽りのない好奇心や協力の産物が増えて行くことを祈っているよ。僕らの映画は、周りの人々や自然と共存するための様々な方法について学ぶ努力をすることが大切だ、と伝えているんだ。これはすべての人の問題で、すべての人に影響する。」

今回アカデミー賞主演男優賞にノミネートされましたが、どの様な気持ちで出席されましたか?

ヴィゴ「僕は、マット・ロスと彼の素晴らしい物語「はじまりへの旅」を作るために協力したすべての人の代表として出席することを大変誇りに感じたし、息子のヘンリーと授賞式に出るのは楽しかった。良いひと時だった。息子はゴールデン・グローブ、全米俳優組合賞、インディペンデント・スピリット賞、英国アカデミー賞にも一緒に行ったんだ。これらすべての賞に俳優としてノミネートされたのは栄誉なことだった。こんな風に同僚や批評家から評価される機会は滅多にない。デヴィッド・クローネンバーグの「イースタン・プロミス」という作品で9年前に同じようなことがあったけど、二度とあるとは思わなかった。こういう賞レースに参加できたこと自体が、僕らの小さな作品にとっては勝利だと思ったし、これが世界の人々に「はじまりへの旅」を見る動機を与えたと思うと、とても感謝しているよ。」

公開を楽しみにしている日本の観客へ、メッセージをお願いします!

ヴィゴ「まず初めに、今まで他の作品でしてきたように、この作品を紹介するために日本に行けなくてごめんね!この作品を ――願わくは一番良い環境である劇場で―― 見るみなさんが、ワシントン州の森の中やニューメキシコの砂漠で撮影に挑んだ僕等と同じように、キャッシュ家の旅を楽しんでくれることを願います。「はじまりへの旅」は僕がとても誇りに思う作品で、今後何年にも渡って人々の記憶に残る作品になると信じています。日本でとても丁寧に紹介して貰えて、とても嬉しいです。」

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