
ゴッド・ブレス・アメリカGod Bless America/監督:ボブキャット・ゴールドスウェイト/2011年/アメリカ
それでも、アメリカからは出られない。
いやー世の中バカばっかりだ! って思うことたまーにありますけれど、わたしはねーそういう、自分のネガティブな感情を引き起こすようなものからは、意図的に目を逸らしているんですよね。『知らなければ、ないのと一緒』って思っているので。怒りや不満を原動力にして行動を起こすのは極力避けたい。そうすることで自分の精神を保っている、自衛ですよ。

あらすじ:中年男と少女が、むかつく奴を殺して回ります。
中年男フランク(ジョエル・マーレイ)は、日々の生活やアメリカの現状に不満を抱いていた。自暴自棄になった彼は、バカ女を殺す。それに感銘を受けた女子高生ロキシー(タラ・ライン・バー)と共に、不快な奴らを殺して回るのだが…。
※ネタバレはありませんが、ラストがどうなるかなんとなく解ってしまうかもしれないので気をつけてください。
- おすすめ
ポイント - 「バカを殺してやりたい」と思っている人に。凡人ヒーローものではないですね。ラストの、ある人物の一言は最高だと思います。

設定がなんとなく「スーパー!」に似ているように思うのですが、フランクもロキシーもヒーロー願望があるわけではないんですね。マスクをかぶりコスチュームを身にまとって『ふだんの弱い自分ではない、強い者になる』、みたいなところは一切ない。不満をぶちまけているだけなわけです。
彼らのメッセージは実に直球で、言いたいことはぜーんぶ言ってしまう。ちょっと照れるくらい言ってしまう。これに関して、わたしは『よくぞ言った!』みたいな爽快感は感じないんですが、これはこれですごくいいと思うんだよね。

なぜかというと、彼らの言うことに完全に賛同して、『悪いのは世の中だ、自分は間違っていないんだ』と受け取ってしまうのは、たいへん危険なことだから。おいおい、お前ら言ってることちょっと恥ずかしいぞ? くらいに主人公たちと自分との間に距離感があるほうが、その価値観を冷静に受け止められるって思うんだよ。
フランクは、テレビとかマジくだらんと思っている。でも、最初と最後の殺人は、完全にテレビの影響なのね。最初は、テレビでやっていることをまんま受け取って、怒りを抱く。最後は、テレビは真実を隠蔽していると受け取って、怒りを抱く。

この人も結局、テレビに踊らされているわけ。しょうがないな、ほんとしょうがないヤツだよ。だからさ、どうやってもフランクはアメリカから出られないんだ。
それからこの映画のすごくいいと思うところは、フランクとロキシーとのあいだに性的な関係も恋愛関係もまったく生まれない、というところ。フランクは筋が通っているんだよな。最初から最後まで筋を通しきったというのは、たいへんに立派なことだと思いますね。
ラストの落とし前の付け方にしても、物語上、筋が通っていると思う。わたしは実は「スーパー!」よりも「ディフェンドー 闇の仕事人」の方が好きで、これを言うと「ゴッド・ブレス・アメリカ」の大オチも想像がついちゃうかもしれないんですが、つまり、そういうことです。